ポエジー夜話特別版(続々々々)

ひきつづき、東日本大震災に接して書いた詩です。この国は復興するでしょう。それが人間の活動、あるいは「生存」というものです。しかし、突然に「生存」を断ち切られてしまった人々の「存在」はどうなるのでしょう。詩的想像力が引き受けるしかないような気もします。




階段の途中に

階段の途中に
屈葬のかたちで
あのひとは倒れていました
まるであの瞬間
消し得ないあの瞬間を
抱え込むようにして
あるいは海を
衝動的に海を
抱え込むようにして
死を考える余裕はなかったと思います
なぜならすぐ上の階に
あたりまえのように希望は
あったのですから
しかしもう
私には悼む言葉もありません
たとえ屈葬のかたちでも
あのひとは抱えたのです
語り得ぬすべてを
おのれの生命を奪った海をさえ
抱えたのです




私は立ち去らない


私は立ち去らない
昨日までは
立ち去るつもりでいた
この世の果ての海のほうへと
ひとり
思い立って
盥の舟のなかを
だがきょう
この世の果ての海のほうが
押し寄せてきたのだ


私は立ち
去らない
立ち去る必要がない
海とともに
ウラン
プルトニウム
それらこの世の果ての物質までもが
すべてここに
来てしまったのだ
おぞましく
微粒を
きらめかせながら


私は立ち去らない
微粒にまみれ
不幸という名の健康を
取り戻すだろう