あなたは漢文脈系?和文脈系?(その1)

突然ですが、日本語の表記、いやエクリチュールについて少し考えてみます。 古代の私たちの祖先は長い間文字をもちえませんでした。そこへ漢字が到来して、彼らはそれを二通りに使用したわけです。ひとつは音を転記するただの記号として。やがてそれはひらが…

通り過ぎる女たち

朝日カルチャーセンター横浜というところで、「フランス詩を探す時間の旅」という講座をもつようになってから、ほぼ一年が経ちます。だいたい3ヶ月ごとに内容を更新しますが、昨年秋はランボーを、今年冬はルネ・シャールを読みました。ランボーは私のかつ…

歴程・夏の詩のセミナーを終えて

「歴程・夏の詩のセミナー」を終えて戻ってきたところです。ここ数年、セミナーは福島県いわき市の草野心平記念文学館を主会場にして行われていましたが、今年は藤村記念文学館のある木曽馬籠に移動して、その「馬籠ふるさと学校」(古い小学校校舎を改築し…

今年上半期の詩集から(2)

新鋭の仕事がつづきます。 佐藤勇介さんの『She her her』(思潮社)はとびきりユニークです。大きめのビジネス手帳かとみまがうサイズの本に、せいぜい見開きページ程度の、矩形にレイアウトされた詩群が収められていて、読むと、これがまた、混線した電話…

今年上半期の詩集から(1)

今年上半期に出た詩集から、とくに印象に残っているものを挙げておきましょう。まず、岩切正一郎さんの『エストラゴンの靴』(ふらんす堂)。いわゆるポエジーを感じさせるところの、すてきな詩集です。たとえば一本の木があるとします。やがて鳥が止まりに…

国語学原論(その2)

この現象にくらべれば、若者言葉のたぐいは語彙論的レベルの混乱にとどまり、私から言わせればむしろほほえましいくらいなんですね。最近も年少の詩友のひとりから、『あふれる新語』(大修館書店)という本をすすめられ、ぱらぱらとめくってみました。まあ…

国語学原論(その1)

詩は言語文化の精華であるとされる以上、詩人が言葉に敏感であるのはいうまでもありません。それはしかし、たとえば国語を正すというような態度とはちがいます。私もふだんはあまり目くじらたてないほうですし、むしろ言葉は規範をすこしはずれているぐらい…

北島あるいは「抵抗」と「流亡」

かたくて歯が砕けそうな話。でも、読んでください。北島に会ってきました。5月28日、早稲田大学文学部34号館大教室。いまさら紹介するまでもないと思いますけど、北島は芒克らとともに雑誌「今天」を創刊し、中国現代詩を革新しました。その後、天安門…

もしも私から母語が奪われたとしたら

今回は仮定法からいきましょう。もしも私から母語が奪われたとしたら、どうだろうか、と。母語は詩人のほとんど血液ですからね、それなしには一日たりとも生きてはいけません。たぶん私は狂い死にしてしまうか、命を賭して母語を取り戻そうとするでしょうね…

「詩ノ窟」探訪

週末、京都に行ってきました。河津聖恵さんが主宰する「詩ノ窟」というイベントに参加するためです。仕事の関係で昼間の研究会には間に合いませんでしたが、朗読と親睦の夕べには完全参加することができました。 まず、会場が面白かった。京都駅まで出迎えて…

谷川さん、宇宙から詩が届きました

3月30日午後11時50分、東京駅八重洲南口。私はミッドナイトつくば号という深夜バスの乗り場にいました。なんでそんなところに? そう、これからつくば宇宙センターというところに赴き、宇宙ステーションにいる若田光一さんと交信するのです。昨年9月…

古典への回帰

どうも最近、古典が復活しているようですね。いまも隣でかみさんがジョイスの『ダブリナーズ』に食いついています。新訳が出たんですね。いいことです。詩はともかく、小説は、とくにその物語的側面にかぎっていえば、昔話の6つのタイプみたいな祖型があっ…

詩脳ライブをやりました(その2)

詩脳ライブはまず、3人の詩人──岩切正一郎、川口晴美、城戸朱理──の朗読から始まりました。 つぎに、私が聞き役になって、「藤井貞和に聞く〜詩はいつから脳に入り込んだか」。「いつから」というのは発生あるいは起源を問う問い方で、少々無理があります。…

詩脳ライブをやりました(その1)

詩脳ライブ(ディレクター野村喜和夫、プロデューサー野村眞里子)というのをやりました。3月5日、代官山のシアター代官山というところで。劇場は子供の俳優を養成する劇団ひまわりの持ち物で、かわいい少年少女がうようよしていましたが、なぜそんなとこ…

いにしえのAV女優たちのバラード

温暖化のせいか、雪が降らなくなりましたねえ。それから、タレントの飯島愛さんが亡くなりました。えっ、何それ? 関係ないじゃん。そう、遠いこのふたつの事象をどうやって関係づけるか、それがまあポエジーなわけで。 昔は私の生まれ育った東京近郊でも大…

私の連詩修業(その2)

前回は私が連詩にハマるにいたった経緯を紹介し、あわせて宇宙連詩への招待をも試みましたが、今回は連詩の実際について少し考察してみようかと。 連詩の最大の勘所は、いうまでもなく、詩から詩への連続不連続の妙、いわゆる「付け合い」にあります。前の詩…

私の連詩修業(その1)

今回は連詩について書いてみましょうか。 私が連詩という形式に関心をもつようになったのは、はるかな昔、オクタビオ・パスら欧米の著名な詩人たちが試みた『Renga(連歌)』という共同作品の存在を知ってからです。彼らの試みは、個性と独創を重んじる西欧…

朔太郎づいています

今年も暮れようとしています。私ごとですが、今年は長篇評論『オルフェウス的主題』を出したり、20歳代の頃の作品群を新詩集『言葉たちは芝居をつづけよ、つまり移動を、移動を』としてまとめたり、はたまた小説「まぜまぜ」(「すばる」8月号、11月号…

不況には強い私です

百年に一度の経済危機とか。でも、それって資本主義の宿命でしょう、たかが。お金を失いたくないといういわれのない恐怖と、欲望は無限に行使できるというめちゃくちゃな前提が資本主義を成り立たせているわけで、つまりそんな恐怖や前提は、宇宙論にたとえ…

ベチャ漕ぎになる夢

いつだったか朝のゴミ出しの作業をわざとマスコミに撮らせたキツネ目の厚労相がいましたが、まあそれはご愛嬌としても、昨今エコを売り物にする芸能人が少なくなく、うんざりですね。 もちろん私だって環境問題には敏感です。とりわけ地球温暖化については、…

血の川のせせらぎ

このあいだ共演した舞踊家の伊藤キム氏のかつてのソロ作品に、小型ラジオで放送大学の講義を流しながら踊るという奇抜なものがあります。私が観たときはたまたま数学の講義で、難解な数式を読み上げている講師の声に、伊藤氏のダンスが絡むのです。おかしく…

ダンスダンスダンス

かねがね、詩は言葉のダンスであり、ダンスは身体の詩であると思ってきました。なので、ダンス公演(おもにコンテンポラリー・ダンスと呼ばれるジャンルで、さすがにクラシックバレエはあまり観ません)には足繁く通い、そのいくつかにインスパイアされて詩…

暴動ノススメ

メキシコに行ってきました。メキシコ自治大学主催のPOESIA EN VOS ALTAという詩祭に招かれての、たった五日間の慌ただしい旅でしたけど。 詩祭の名称を直訳すると「声に出す詩」、まさに詩を書物空間から解き放とうという趣旨らしく、さまざまな詩人や音楽家…

不幸養成ギブス(その2)

くそ、俺ら、売れないプロの詩人、てゆーか、詩人という名の不幸養成ギブスをはめられて。 このあいだ地下鉄に乗ったら、中吊りに、「地下鉄文学館」とかいう名の東京メトロの広告があってよ、へえー、文学か、なかなかやるじゃん、と感心するも、よくみると…

不幸養成ギブス(その1)

突然ですが、来月メキシコの詩祭に招かれて、はじめてラテンアメリカの地を訪れることになりました。メキシコについては詩人オクタビオ・パスの祖国という以外ほとんど何も知りません。そこで何かメキシコ関係の面白い本はないかと探しているうちに、そうだ…

詩があらゆる非詩的なものに化けて詩人を追いかけまわすホラー

とある年少の詩人と話していて、彼はどうも人妻に懸想したらしく、そういうまったく詩的でない(?)対象に打ち込むことがかえっていい精神衛生になっているというんですね。ま、白秋の轍は踏まないようにと(時代がちがうか)奮励努力を促しましたが、もう…

なんでもポエジー

「宇宙連詩」という企画の一環として、先日、谷川俊太郎さんと対談をしました。処女詩集が『二十億光年の孤独』で、火星語なるものを発明し、いやそもそもその人となりが宇宙人とか異星人とか呼ばれてきた人と宇宙の話をするというのも、なんだか不思議な感…

移動しながら書く

4月下旬から2週間ほど中国を旅しててしばらくブログを中断していましたが、また始めます。それにしても、帰国したらすぐに四川大地震のニュース。被害の甚大さに胸が痛みます。私が旅したのは、上海を起点に、蘇州、杭州、武漢、南京といったいわゆる江南地…

ポップな少数者のきびしい言語

自著に言及してもらうのは、何であれうれしいものですが、谷口慎次さんという若き学究がその論考「現代の詩の展望」(「日本現代詩研究者国際ネットワーク」所収)のなかでぼくの『現代詩作マニュアル』を引き合いに出してくれました。ありがとうございます…

こねこねぱにっく

こねこね、こねこね、こねこねこねっぱ、こねこね、こねこね、こねこねぱねっこ! 人の一生は幼少期で決まる、とよく言われますけど、ほぼその通りだろうと思います。私は埼玉県西部の農家の生まれで、ぼくという生のベースには土の記憶、土の匂いが詰め込ま…